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助成活動事例「国立大学法人神戸大学 小山 竜平氏–人工環境下でのイチゴ栽培における風媒授粉の検討」

 研究情報 
    • 助成テーマ:農林水産業における革新的・先進的技術に関する研究【2023年度】
    • 研究題目:風媒によるイチゴ人工授粉技術の開発と植物工場栽培モデル実現
    • 代表者名:小山 竜平
  • 代表者所属:国立大学法人神戸大学大学院 農学研究科 資源生命科学専攻
  • 発表学会情報:2025年8月28日 令和7年度園芸学会近畿支部大阪大会(大阪公立大学中百舌鳥キャンパス)

 

 

発表内容


「人工環境下でのイチゴ栽培における風媒授粉の検討」

 

【背景・目的】

国産イチゴの通年供給が望まれているが、夏季の栽培が困難である。また、高品質な日本産イチゴの輸出が期待されているが、使用農薬により検疫を通過できないケースがある。これらの課題に対し、植物工場を利用した高品質イチゴの生産が期待されている。しかし、その実用化は進んでおらず、授粉技術の確立が大きな課題の一つとなっている。また植物工場栽培では、生理障害であるチップバーンが葉や萼に発生しやすく、生育や商品価値の低下につながる。本研究は、人工授粉とチップバーン軽減を可能とする送風利用技術を開発し、イチゴ植物工場の基盤技術を目指すものである。

 

【材料・方法】

これまでの我々の研究において、無菌培養で増殖させたイチゴ苗を、人工光を利用した恒温室での水耕栽培に導入し、開花・結実させる条件を確立している。本研究ではその栽培モデルを利用した。所定の風速に設定可能な装置を構築し、気流シミュレーションにより棚内での風速分布を解析した。そしてイチゴの栽培期間中の送風処理を行い、葉および萼におけるチップバーンの発生状況を調査した。また、各品種の花の形態調査、花粉発芽率・生存率を計測し、収穫された果実の評価を行った。

 

【結果・考察】

チップバーンの発生抑制については、一部の品種において萼での低減効果が認められた。レタスの植物工場栽培では送風がチップバーン抑制に有効であることが先行研究で報告されているが、本研究でのイチゴ栽培では葉での低減効果は認められなかった。

一方、送風処理により可販果実の獲得率は向上し、品種ごとに最適な風速が異なる可能性が示唆された。しかし、その可販果率は7割未満に留まり、虫媒を利用した温室栽培には及ばないことから、実用化に向けては改善の余地が大きいと考えられる。